発熱原因
いや、前兆がなかったわけではない。
20時過ぎても旦那様からの帰るコールがないので先に一人で夕食をとった時。
その日、昼間にテレビでチラッと見た「新タマネギと生姜焼き」というメニューはスライスのタマネギの上に生姜焼きをのせた、豚シャブの冬バージョンという感じ。
丁度、豚肉もタマネギもあるし、今日はこれをメインにしようと決めた妻。
しかし、いざタマネギをスライスしようという時に気が付いた、うちにあるのは「新」ではなく普通のタマネギだったことを。
(でも、タマネギには違いないのだから少し長めに水にさらせば何とかなるでしょ)。
かるーい気持ちで調理し始めたけれど、いざスライスという時にスライスカッターを取り出すのが面倒で包丁でやり始めた。そして、(包丁の切れが悪い)とは思ったけれど、研ぎ石を出すのが面倒でそのまま続けた。
この日はとにかく全てが面倒だ、怠い、という感じ。
結果、でき上がった「タマネギのスライス」はこれまでで一番厚く、乱雑な切り口の見るも無惨なものとなった。
水にさらして放置。
20時過ぎになったので、とりあえず一人分の生姜焼きをつくり、そのタマネギと食べてみた。
キョーレツ・・・
タマネギが厚くて生々しくて、食べてるだけで涙がでてきそうだった。
(これは、いくら何でも旦那様にはだせないわ)と思ったが、一度自分の皿に盛った分、せめて半分は食べなければと一人我慢大会になった。
妻としては、おそらくその時点で、眉間のあたりから頭痛がして気分が悪かったような気がする。
就寝時には激しい倦怠感と37度少しの熱、悪寒が走りカイロを3つと毛布を2枚でかぶって苦しんだ。
翌朝には特に問題なく熱も下がり気分もよくなっていた為、妻はきっとタマネギのせいだと思った。
「自分の料理で気分が悪くなったのは久しぶりだわ~」と振り返る妻に、
旦那様は、
「いや、原因はタマネギじゃないと思うよ」と言う。
旦那様は帰宅後、妻の話から、妻がその日の昼間に気付け教室の宿題として出された「大嫌いな裁縫」に取り組んだという事を聞き、熱が出たのは、「大嫌い」にも関わらず、宿題を一気にやり終えたことが原因だと分析するらしい。
確かに妻は裁縫がとっても苦手。
中高生の頃、家庭科の課題は、国語の作文や感想文と引き替えに友達が担当してくれていた。
一人暮らしになってからも、「ボタンが取れた服はもう着られない」と思っていたので、ある時それに気が付いた友達が、その後訪れる度に「ボタンつけるのある?」と聞いてくれるようになっていた。
だから着物教室での裁縫も先生が呆れるくらい下手で、やっていて自分でも吹き出すことがある。
時々、宿題を出されても、「次、どうすればいいか忘れてしまって・・・」等ととぼけて途中までしかやっていかないことの方が多いのだ。
その妻が、新しい紬の着物を着る為にどうしても終わらせねばならぬ宿題を一日で片づけたのだから旦那様も驚かれた様子。
今振り返れば夕飯の準備があんなに面倒に感じてしまったのも、昼間の裁縫のせいだったのかもしれない。
妻としては、タマネギを食べた頃から体調不良が始まったつもりだったのだが・・・
果たして、原因は「タマネギ」か「裁縫」か。
主治医に聞いてみよう。
「先生、タマネギが生すぎるのと、大嫌いなことを我慢して長時間続けてやるのでは、どちらが発熱する可能性が高いですか?」
結果をお楽しみに。
レタスショック
あの日、当のネーブルを食べる時、一応旦那様に
「これ、なんでしょう?」と聞いてみた。
「ネーブル」という正しい答え。
「そうだよね、夏みかんには見えないよね」という話から、妻が
「じゃーさ、レタスとキャベツって小さい頃、区別できた?」と質問。
それに対して旦那様はショッキングな答えをなさった。
「ぼくの小さい頃にはレタスはなかった」
「えっ・・・」
これまで、何かの話をきっかけに、旦那様の幼少期には自宅に電話がなかったとか、大学生の時に計算機が売り出されたとかいう事実は聞いたことがあった。
しかし何せ「機械関係」のことなので、例えば妻が高校生の頃に携帯電話が一般的ではなかったのと同様、数年で目まぐるしく変化して当然、数十年となればそれはそれは大きく進歩しているだろうという感覚なので、それらの事実にさほど驚くことはなかった。
たまに周囲から「二人は年齢差を感じることはないですか?」的質問をされる。
しかし演歌に詳しく好きな俳優が高倉健だという妻と、テニスの何とかスピンを習うだけの目的でアメリカに渡ったり、40過ぎて突然にスノボーに燃えたり、おやじギャグを聞いてもそれがギャグだと理解もできないレベルでおやじらしくない旦那様との間に、日常生活で改めて「年が離れているなー」と実感する機会はそうないものだった
(他人に夫婦と思ってもらえない場合を除いては)。
だが食べ物の、それも「レタス」がなかったという話には妻は大変に驚いた。
考えてみれば、食品にも移り変わりがあって当然といえば当然。
例えば、妻と比較的年の近いホリエモン様が20年後に二まわり年下の奥様に
「俺が若い頃は宇宙旅行が一般的じゃなかったんだぜ」
と言ってもあまり驚かれないが、
奥様に
「ねー、エリンギと生椎茸って小さい頃、区別できた?」と聞かれて
「ぼくの小さい頃にはエリンギはなかった」
とお答えになったらビックリされる可能性もあるのだ。
次回から「年齢差を感じるのはどんな場面か」と質問をされたら、胸を張って答えようと思う。
「小さい頃、レタスはなかった」といわれた時。
夏みかんショック
先日の「鳩さんのオメメ」に出会ったスーパーほど大型ではなく、商品の出処を明確にする点に力を入れていて普通のスーパーよりは店員教育も行き届いた食品館でのこと。
レジの女性は妻が差し出したカゴ一杯の食品を一つずつバーコードに通していく。
一品ごとに○○円、○○円と金額を声にだしていくのだが、
「980円・・・」
(あれ?牛もも肉って、880円になってたから選んだのに今のじゃ980円のままじゃない?)
次々に商品が加算されていく中、妻は迷った。
もしかしたらグラム正規の価格で打ってその後、値引きというかたちになるのかな?いや、あれは別の店だったような。今、言ってみるべきかな、でも後ろにたくさん人が並んでるし、サービスカウンターで言うべきかな・・・。
その時突然、この店にしては珍しく若い十代後半か二十歳そこそこと思われるレジの彼女が妻に向かって問いかけた。しかも笑顔と大きな声で
「こちらは夏みかんでしょうか? 」
(はっ?)
あまりに急な事で妻は言葉を失った。彼女の手には生鮮食品売場で選んだばら売りのネーブルオレンジが一つ握られている。
(ネーブルを持って、夏みかんですか?って・・・)
聞かれている主旨がわからないのと、牛もも肉で一杯だった妻の頭は混乱し、
「エッ、あの、ネーブル・・・」と小声になる。
するとレジの女性は元気一杯に
「少々お待ちください!」
と言い残しネーブルを握りしめ、生鮮食品売場に走っていった。ばら売りの果物はバーコードシールが貼っていない為、レジでその果物名を選択するようになっているのだろう。
その後ろ姿を見送りながら、なぜか一瞬、「キャベツを買ってこい」と言われたのに間違えてレタスを買って叱られた幼少の頃を思い出した妻は急に不安になった。
もしかして私がこれまで「ネーブル」だと信じて食べていた物は「夏みかん」だったのだろうか・・・いや、ネーブルは英語のNAVELからきているはずだ、あったよねあの果物にも「へそ」が・・・
そんな妻の前に息せき切って戻ったおねーさんは、再びとびっきりの笑顔でおっしゃった。
「失礼しました、ネーブルオレンジ158円です!」
(そりゃ、そうだろうよ。それは「夏みかん」には見えないよ)
牛もも肉も吹っ飛ぶ質問だった。
妻も柑橘類にやたら詳しいわけではないが、食品館で勤務するなら「ネーブル」と「夏みかん」の区別はついた方がいいと思う。
それから、笑顔を大切にするのはいいけど、笑顔で言うと逆に相手を混乱させる内容もありえるんだよ、おねーさん。
家計を握っているのは誰か
「あーん、僕のお金がーー、わーん、電気代返してくださーい、わーん・・・」(カーペットに倒れ込む)
「はいはい、大丈夫、大丈夫、来月からはこっちの口座にしましょうねー、よしよし」
大きな声では言えないが、50も過ぎた夫と二まわり年下の妻の会話である。
時は結婚○年目も間近というある晩の夕食後、妻の友人Mちゃんのうちではご主人に毎月5万円小遣いとしてあげているという話から、
「うちは、旦那様が家計を取り仕切ってくれるから楽だわー」という妻。
一説によると日本の家庭の8割近くで妻に家計の主導権があるとのこと、「うちは欧米型なのねん」と思っていた妻だった。しかし・・・
夫は怪訝な顔で
「えー?、ぼくは何もしらないよ、あなたがやってくれてるんでしょ?」
「はっ? 旦那様がやりくりしているんでしょ?」
現に妻は月初めに夫からまとまった現金を受け取り、それは食費と雑費、妻の小遣いに当てられている。妻にとっては余ることはあっても不足したことはない額なのでこれまで結婚してから生活の上で「やりくり」という概念はなかった。
公共料金や通信費その他マンション管理費等は旦那様の給与が振り込まれているT銀行から自動引き落としされているはずだ。
だから妻は知らない、給与から自分がもらう額を差し引いた残金がいったいどなっているのか。
「ぼくだって知らないよ、残りがどうなっているかなんて」
「えっ、残りが旦那様のお小遣いじゃないの?」
「僕は給料から小遣いもらったことない」
「じゃ、昼食代とかガソリン代とか、しょっちゅう買ってくる洋服、それに、(少し大きめの声で)今度の入籍記念日の妻へのプレゼントとか・・・どっから出すの?」
「あれは全部、僕のお金」
「えっ、じゃ、うちは誰が家計を握っているの?」
「あなただと思ってた」
「私だって、旦那様だと思ってた。だって通帳もあなたが持ってるでしょ。私、見たことないもん」
「たまたま僕の部屋に置いているだけでしょ」
旦那様は毎月末にコンビニで一定額を引き落とし、それをそのまま妻に渡していたらしい。
確かにこれまで、現金で車を購入する時や引っ越しの時などに、まとまったお金の話はしたことがあるが、毎月の小さな額に関しては触れたことがない。
そこで初めて二人、T銀行の通帳をじっくり眺める。
「えーと、給与から、電話・水道・ガス・携帯・マンション関係・・・差し引くと・・・」なるほど、この残金が毎月貯金という形で残り、その中から「家関係」の消費をしているわけね。前回の冷蔵庫もここから出たのかー、もうすぐ新しい炊飯器もこのお金で買うんだわ。
「えらいわー、旦那様がこの残金をお小遣いにしていないから、お買い物できるのね」
(ちょっといばって)「そうだよ、ぼくのお金はこっちのF銀行の口座だからね。ここから自分の生命保険も個人年金も引かれるんだよ」
(妻、T銀行の通帳を再度見て)「じゃ、一体、毎月の生活費っていくらくらいなのかな?」
計算を始めて気が付いた。「電気代」がない、引かれていない。もしかして・・・
やはり、旦那様のF銀行の通帳に「デントウ」とう引き落としを発見。何かの手違いで電気代だけは未だに旦那様専用の口座から毎月引き落とされていたのだ。
給料に手を着けていない、自分のことは自分でまかなっている、と自負される旦那様だったが、まさか、自分のお金から、毎月の電気代(ちなみに先月は2万3千円)まで引かれていたとは知らず大きなショックを受けられた様子。
妻に言わせれば、今まで気が付かない方が悪い。
しかし、そんなことおくびにも出さず、カーペット上でジタバタ騒ぐ夫をなだめるのだった。
心中「これまでの電気代の返金を阻止せねば」と夫の気をそらす方法を考えていると、
「あっ、そうだ、昨日の指し値でどうなったかな・・・」すくと立ち上がり株取引のため自分の書斎のパソコンへ向かう夫。
戻ってきた時にはもう電気代のことは覚えていない。
歳を取るって、ス・テ・キ。
かくして、我が家はこれまで同様、二人どちらも家計を握っている自覚なく平和な消費生活を続けるのであった。
暗証番号
なんでも、大事な「メモ」を、シークレット機能で入力したが、そのシークレット解除の暗証番号が思い出せないらしい。
妻:「暗証番号ってさ、普通すぐ思い出せるような数字にするんじゃないの?」
旦那様:「う~ん・・・」
妻:「結婚式記念日は?入籍記念日は?」
旦那様:「やってみたけど違う」
妻:「旦那様の好きなあの変な科学者の誕生日とか・・・」
旦那様:「一番最初に試したけど違った」
妻:「一番最初がそれかい。 銀行のカードと一緒なんじゃないの?」
旦那様:(試してみるが)「違う。(ふと)あっ、あなたの誕生日かも・・・」
妻:「まっ、旦那様ったら、私の誕生日に?」(ちょっと喜ぶ)
試してみるが結果、違うことが判明。
妻:(少々ムッとして)「だいたいさー、すぐに思い浮かばないような数字を暗証番号にするかなー?」
旦那様:「ダメだー、どうしよう」
妻:「そうだ、先月機種変更した時、ドコモのおねーさん何か言ってなかった?
伝票みたいな紙もらったよね、あれに書いてあるんじゃない?」
二人で用紙を捜しだし、暗証番号確認。
1868
???
旦那様:「あーー、思い出した。1868ね」
その数字に心当たりのない妻は、(さては妾宅の電話番号末尾など、女性がらみでは?)と思い、ここで旦那様の弱みを握れるのではないかと期待して聞いた。
妻:「何?何?何の数字なの?」
旦那様:「明治維新」
妻:「は・・・?」
旦那様:「この前ドコモに行った時、何かこう、『明治維新だな』と思ったんだよねー」
(いくら年上旦那様でもその時代は生きていないはずだ)
妻:「その維新に何か強い思い入れでも?」
旦那様:「いや、別に」
妻:「・・・」
確かにこの世知辛い世の中、すぐにわかってしまうような数字では防犯上も問題があるだろう。しかし、だからと言って、なぜ「明治維新」なのだろうか・・・。
思い出せなきゃ意味ないじゃん。